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アンデスの旅 その10:レインフォレスト

 ランチをいただくロッジまで、バンを降りて川沿いを私達は歩いた。あたりは水々しく清々しい。このあたりは、まだまだ湿気は少ないようだった。とにかくそこを歩くだけで気持ちよかった。相変わらず花が多い。いつしかあれもこれも花を撮っていた。レインフォレストでは、一年中花が咲いているとのこと。鳥達も現れる。鳥が苦手なはずなのに、何故かあまり気にならなかった。ランチの後、バンは、川沿いを離れて、平地を走る。どんどん暑くなってくる。村も過ぎていく。景色は、すごく遠くにジャングルらしい木々の固まりに囲まれている。この平坦で美しい環境の中で、でも、そこに住む人々は貧しいのであろうか・・

 バンの中は真夏の暑さだった。シャツ一枚になって、差し込む太陽をさえぎりながら、だるい身体をもてあまし、眠っているのか起きているのか。随分長い間走る。途中の村ピルコパタで、トイレ休憩。他のスタッフが乗り込み、さらなる荷物を積みこんだ。さらに40分ほど走っただろうか。やっとアタラヤという河沿いの村に着いた。クスコを立って、10時間。ここは、世界自然遺産でもあるマヌ熱帯雨林保護地区の玄関口とでもいうのだろうか。多くの人々は、このあたりからボートで奥地へ向かう。まだ16:00過ぎというのに、村の若者数人はBGMとともにビアでくつろいでいた。ここからボートで河を下り、本日のロッジへ向かう。バンの荷物を全てボートに移す。一瞬にわか雨。そして、すぐに傾いた太陽が現れる。トロピカルなお天気だ!

 12人くらいは乗れそうな長細いボートだった。私達のボートにはボートマン2人、ガイド、そして、我らがクック(料理人)が乗船した。かつてディズニーランドでは、ジャングルクルーズを楽しんだものだったが、今、まさに本物のジャングルクルーズが始まろうとしている。しかし、ジャングルクルーズのように狭い川ではなく、アマゾン河の上流のひとつらしく、十分大きな河だった。アルト・マードレ・デ・ディオス河。いよいよ出発だ。あたりはなんとなく色が落ち、夕方の風景に向かっていた。

 乗船して、数分、さっそくガイドさんは、鳥をスポット!私達が見逃してしまうと、彼は、右手を旋回させ、後ろのボートマンに戻るよう合図。ボートは、あっという間に向きを変え、鳥の方向に。バードウォッチング初体験の私は、その慣わしも分からず、そして、まだ慣れない一眼レフカメラを、指し示される方向に向けた。

 ペルーは世界で一、二を争う鳥の種類が多い国だ。鳥の苦手な私は、ジャングルツアーの申し込みをしたものの、鳥など気にかけていなかった。ハーブは少し勉強していこうと思いつつ、出発前の多忙に負けて何もできず。結局、全く何も知らずにジャングルに入ったのだった。

 この後、ツアーの1週間、私はとにかく、カメラを構え、シャッターを押し続けた。鳥など見るのも好まない私だったけど、スポットされると撮らずにはいられなかった。鳥ばかりでなく、お猿さんも、かわった動物達も、亀たちも、虫たちも、そして、咲き乱れる花々も木々も。時間を惜しむように、様々な生き物を見せてくれるガイドさんの指し示す方向に向け、シャッターを下ろしたのだった。

アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_22573736.jpg 最初のロッジを後にして、2日目は、一日中ひたすら河を下る。昨夜のディナーの時間は、会話が聞こえないほどの豪雨だったためか、河の水嵩は増し、茶色い水の流れは怖いくらいに速かった。まだ雲が残っており、背景はうすグレーだったけど、河岸から向こうに果てしなく続いているだろうレインフォレストをパチパチ撮った。木々の形が珍しい。トイレ休憩で中州に下りる以外はボートの上。ガイドさんは、休む間も惜しんで、右に左にと鳥たちを見つけ、私達に教えてくれた。鳥の名前を言われてもさっぱりなのだけど・・。でも、サギは見ればわかる。ヘロンと言う。ウッドストークはコウノトリ。これは、赤ちゃんを運ぶ鳥、ということで理解した。

 私が鳥の名前を学んでいる??

アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_18531291.jpg そして、時にお猿さん達も見つける。これこそ、いいショットを撮らなきゃ!その後、何種類の猿を見たことだろうか!そして、ケイマン。ワニの仲間。このあたりには、ホワイトケイマンとブラックケイマンがいる。まず見つけたのは、白い方だった。こんな感じで、シャッターを押し続ける船上の一日が過ぎる。ランチもボートの上。我らがクックは、ボートの上をものともせずに、おいしいランチを作ってくれた。インカトレイルのツアー同様、スナックもフルーツも豊富にある。

 ボカ・マヌというマヌの中の唯一の村で、一旦降りる。ここは、マヌ河が、マードレ・デ・ディオス河に合流するところ。ボカとは、スペイン語で口という意味。マヌの口ということだ。村は、人気が無く、ビアガーデンに丁度いいような、ちょっと大きめなガゼボ(というほどおしゃれではないけど)のようなものがいくつかあり、宿泊施設、そして、雑貨店が1件あった。ここで、ちょっと買出し。多分、村はもう少し広がりがあるのだろうが、私達は、中心地と思われる広場のすぐそばにある作りかけのボート見た。本当に作りかけのボートか、ツーリストに見せるために置いてあるのか・・。この辺の人たちは、ボートを作って生計を立てているらしいが、彼らは木を切ることはしないという。上流から流れてきた木を引き上げ、乾かしてからボートを作るのだそうだ。シダーと呼んでいる木がボートの横面で、底板はまた別の木で作るとのこと。

 このシダーは、クスコに着いて以来、たびたび出てきた木の名前だ。クスコも昔は、シダーで覆われていたとのこと。このシダーで教会の祭壇を作ったりした、と。マヌで、やっとシダーの木と対面した。見て驚いた。シダーとは、少なくても日本や英語圏では、杉の仲間を指すが、このシダーはまったく杉の面影がなかった。おかしい。後で調べたら、ここで言うシダーとは、センダン科の Cedrela odorata のことだった。スパニッシュ・シダーとも言われる。アマゾン・ベースンでもどんどん見られなくなってきているとのこと。なので、マヌでは、この木を切ることを禁じている、ということだった。

 2日目からのロッジが、この後の棲家となる。前日のロッジより、さらに快適だ。シャワー・トイレ付の部屋。ベッドにはもちろん蚊帳がついている。ダイニングルームには、ミネラルウォータータンクが置いてある。電気は必要に応じて数時間だけジェネレーターを回す。

 何だ、電気あるんだ。カメラのバッテリーチャージャーは、ホテルに置いてきたのに・・・

 ジャングルでの日々は、意外と忙しい。朝早く起きて、ジャングルに住む鳥や動物達、そして、彼らの暮らしぶりを見に行くのである。絶滅危惧種の動物もいれば、珍しい食習慣を持つ鳥たちもいる。出発は4:30am。ボートに乗って、暗闇の中出発する。朝はそこそこ涼しくて、縮こまりながら眠ろうとする。河の両サイドに広がるレインフォレストは、ゆっくりと色づき、また新しい日を迎える。

 マカウ、つまり、コンゴインコが集まるというマカウ・クレイ・リックといわれる場所へ向かっていた。クレイは粘土、リックはなめる、という意味。マカウは、粘土層に含まれるミネラルをなめるために土壁に集まるのだ。多様な生物達が生活するジャングルにおいて、マカウの食糧は、一種の有害物を含む果物の種であり、それを解毒するために、ミネラルをなめなくてはならないらしい。しかし、ジャングルには天敵も多い。マカウ達が土壁をなめる時は、集団で行う。そして、敵に狙われないように、大勢で協力的に順番に土をなめるのだ。

 ボートで40分は移動したであろうか。マカウが集まるという河に面した壁の対岸に、バードウォッチングのためのプラットフォームがあった。ボートを降り、静かにプラットフォームに上がる。壁に面して並ぶ椅子と手動の水洗トイレしかない。手動のトイレとは、つまり、用を足したら汲み置きしてある水を自分で流すというもの。トイレがあるだけでもありがたい。紙は、横のゴミバケツに捨てる。紙を流さないのは、クスコの街中でも同じこと。ホテルでもレストランでも、トイレは水洗だが、ほとんどのところは、紙は流さず別に捨てる。すでに他のグループも来ていたこのプラットフォームで静かにマカウが集まるのを待つ。まずは、ブレックファストだ。我らがクックが朝作っておいてくれたパンケーキを静かに食べる。

アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_22482149.jpg マカウが、2羽、4羽と集まってくる。警戒しながら、時間をかけて徐々に仲間が集まってくる。マカウは必ずつがいで行動する。マカウはギャーギャーといった、ちょっと過激な鳴き声を出す。2時間たったであろうか。過激な鳴き声は重なって、うるさいくらいになると、仲間が十分集まったということ。いよいよ枝に留まって敵の見張り役となめる役とに分かれながら、順番に役割を交代する。十分なめたら、次は枝に移り、見張り役が壁に移動し、なめるのだ。それはそれは、システマティックな共同作業だ。コンドルの仲間のボルチャーがスキを狙っているのか、遠くの枝にずーっと留まっている。時に、敵の動きを察知したのか、見張り役から合図があったのか、土壁にいたマカウ達が一斉に飛び立つ。何事もなかったと確認するとまた土壁に戻り、ミネラルをいただく。こんなにも大勢の鳥達を双眼鏡で眺めたり、一生懸命写真におさめている自分がおかしかった。私は鳥の写真を見るのも嫌なのに!!


 少し離れた見張り小屋で、動物が現れるのを一晩中待ったりもした。南アメリカにしかいないバクの仲間、夜行性のタピをスポットするのだ。静かでシャイでもあるタピには、なかなか出会うことができない。実は、私達ゲストは、蚊帳付のマットでちゃんと寝ることができる。夜しか現れないタピを見張っているのは、ガイドさん達。タピは警戒心も強く、タピの見張り小屋、プラットフォームでは、物音を立ててはいけない。ライトもトイレに行く時だけ、その光を隠しながら使う程度。私は、3晩もタピ・プラットフォームで過ごしたのに、結局見ることができなかった。ある晩は、すぐそばまで来ていたみたいだけど、警戒して行ってしまったと、ガイドさん。別な晩には、交代で見張りをしていた他のグループのガイドさんが、タピが現れるスポットに、何かが居るみたいで、タピが警戒して寄ってこない!と。何かを感じたとのこと。このガイドさん、スピリチュアル系?タピには会えなかったけど、私達人間の思い通りにならないのが、自然界だ。私は、ロッジともまた違う、レインフォレストの音だけがするこのタピ・プラットフォームにいるだけで幸せだった。日暮れや明け方には、森の音とせせらぎに包まれて瞑想をした。

アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_18464879.jpg また別の日は、河の流れが変わることによって、取り残された元河である湖、オックスボウと呼ばれる河のようにくねった長細い流れのない湖に、動物や鳥を見に行く。出発は朝5:30。ボートで30分くらい移動したであろうか。そして陸地を少しだけ歩くと、オックスボウ・レイクの1つに出る。ここで、カタマラン・ボートに乗る。カタマラン・ボートとは、日本語では双胴船。船を2つ横に並べて、繋ぎ合わせたボートのこと。我らがクックはちゃんとブレックファストを託し、ボートには私達ゲストとガイドさんとボートマンだけが乗り、彼らがボートを漕いでくれる。流れのない湖面である。鳥の声しか聞こえない。曇りの日ではあったが、朝のすがすがしさ、そして、静けさ。時折、ゆっくり漕ぐオールがはねる水の音がするだけ。ボートは音を立てずに動く。思わず瞑想したくなる。目的は、ジャイアント・オッターという南米にしかいないオオカワウソの仲間。オッターは、本来単独行動をするとのことだが、このあたりは敵も多く、集団で行動しているとのこと。集団といってもファミリー単位。このレイクでは、7頭のファミリーが住んでいるとのこと。彼らは朝、ブレックファストを狙って、湖を徘徊する。私達は、それを観察するのだ。彼らに会えないこともしばしばあるらしいが、私達は、運よくファミリーと遭遇して、彼らの朝食風景を見ることができた。ナイスショットは難しかったけど。

 グループの一人が、ウォーキングトレイルのないところを歩きたい!とリクエストした。そこで、ボートは予定を変更して、人が入ってなさそうなあたりの崖に停泊した。河に面しているところはどこも少々赤い土をむき出しにしている。河の流れに削られるのだ。3mもない崖だったけど、滑りながらちょっと苦労しながらよじ登る。崖の上にはプライマリー・フォレストが続く。プライマリー・フォレストとは、全くの人の手の入っていない原生林のことである。ロッジのあたりも、ロッジやバナナ畑のように一部手は入っているが、森自体はプライマリー・フォレストである。しかし、ここはほとんど人がくることのない森である。もっと鬱蒼としたジャングルを想像していたが、木は高く、沢山のリアナ(つる植物)が、あちらこちらに巻きついているが、小さな樹木はほとんどなく、吹き抜けのようなスペースを感じる心地よい空間だった。実に気持ちがいい!レインフォレストは、水水しく、すがすがしく、エネルギーで満たされているのをダイレクトに感じる。エネルギーといっても、屋久島で感じたような確固たる強さを感じるものではなく、空気のような、でも生き生きした、エネルギーだった。生命を沢山感じる!息づいている!そんな躍動的なエネルギーだった。たまらなく心地よい。ここにいるだけで元気になりそう!!

アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_230214.jpg 広大な、エネルギーに満ち溢れたレインフォレスト。何かを考えるのでもなく、気負うのでもなく、ただただその大自然とともに存在し、遭遇する鳥たちや動物たち、そして、巨大な樹木、美しい花たちを楽しんだ。大自然に溶け込んだ一週間が過ぎた。
 
 いよいよジャングルともお別れだ。私達のグループは、ボカ・マヌの空港からクスコに戻る。ロッジでブレックファストを済ませてパッキングをして、ボートで空港に向かう。日差しが強い、雲ひとつ無い日であった。ボカ・マヌの空港は、椰子の葉っぱで覆った大きなガゼボ風の建物が1つあるだけ。滑走路も草で覆われている。クスコからのフライトは、1日に1本だけ、あるかないか。だから、その日に運行するのかも、何時に着くかも、予定は未定、という感じ。前日、そして、今朝、ロッジでガイドさんが、無線で運行を確認しなくてはならない、そんな不定期なフライトだ。荷物とともに体重を測らなければならなかった。

 飛行機がどこからともなく、飛んできた。静かなジャングルに爆音が轟くかと思ったが、音は、広大なスペースに飲み込まれ、飛行機は、小さいな、と思った草が生い茂る滑走路におもちゃみたいに静かに着陸した。ガイドさん達と別れを告げ、飛行機に乗り込んだ。降ろすべきものを降ろし、乗るべきもの乗せたら、飛行機は、早速離陸の準備。その間、15分もなかったか。


 ジャングルの木々を斜めに抜け、飛行機はどんどん高度を上げていった。その瞬間、私は、窓の外の風景に釘付けになった。眼下には、蛇のようにくねる河を数本這わせたレインフォレストが、その言葉通り、果てしなく続いていた。前後左右どちらを見ても、同じように熱帯雨林は終わることなく、地平線の向こうまで続いていた。レインフォレストのキャンバスは、大きな雲の影を模様のようにあちらこちらに映し出していた。一週間、ジャングルの中で、あちらこちらへとボートで移動したけれど、過ごした場所は、1点より小さかった。私は、ジャングルを何も分かっていなかった。私は一瞬言葉を失い、そして、涙を流していた。アンデスの旅 その10:レインフォレスト_f0053026_18371216.jpg

 残っていてくれてありがとう・・・・

 熱帯雨林が物凄い勢いで伐採されていることは聞き知っていたが、でも、少なくてもここに熱帯雨林が広がっているのだ。ありがたくて、嬉しくて、涙が止まらなかった。

 この人間業では成しえない果てしなく続くレインフォレストを、壊す権利が誰にあろうか。壊してはいけない、あの溢れる生命を一瞬のごとくに壊すことに、無関心であってはならない。

 心に激震が走った。


 飛行機は、次第に雲の中に入っていった。クラウド・フォレストの上空か。そして、切れ切れになった雲の下に広がっていたのは、緑の無い土の起伏だった。アンデス・・・・。
咳が出そうな土の絨毯は、やがて、ごみごみとしたクスコの町を映し出した。

 その乾いた風景とともに、ジャングルの旅は終わった。


 to be continued...
by phytobalance | 2010-06-08 18:09 | 旅・Journey