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もののけの森へ

屋久島は乾燥していた。
ひと月に35日雨が降る、といわれるこの島も乾燥することがあるのだ。
雲ひとつない晴天の毎日だった。

抜けるような濃いブルースカイのもとで、窓を全開して運転していると、度々カリフォルニアを感じる。
カリフォルニアは砂漠である。ものすごく乾燥している。
そう感じるほど、屋久島は乾燥していたのである。

あれだけ九州で猛威をふるった台風も、今年はことごとく屋久島をさけて行ったそうだ。

屋久島のエネルギーを前回ほど感じられなかったのは、この為だったかもしれない。


白谷雲水峡を訪れた。
宮之浦川の支流、白谷川に沿って、深く苔むしたビロードグリーンの世界が広がる。
屋久島の乾燥は、さすがに、ここまでは及ばない。
普段よりは水量が少ないのかもしれないが、それでも、最初に出会う滝、“飛竜おとし”は、絶え間ない激しい水の音で私たちを出迎えた。

橋を渡って、少々急な斜面を一気にあがると、川はもう随分と下にある。
ほどよい湿気と、遠くせせらぎの音と、朝一番の優しい空気が、心を穏やかにする。
そして、少しずつ陽が差し込む。

江戸時代に切り倒された屋久杉の切り株も、長い年月のうちに積み重なった倒木も、全て、モスグリーンに覆われている。
これだけの苔がむすまで、どれくらいの年月が必要なのであろう。
ここでは、どんな形で朽ちようとも、ちゃんと苔たちが、美しく化粧を施してくれる。
そして、苔はまた、新しい命の温床となる。


太陽は少しずつ高くなり、木々の間からまだらに光を感じる。
今日も晴天である。
それでも、まだ、少しひんやりする中で、少々汗を感じながら、傾斜を少しずつ上る。

少しずつ強くなる陽は、照葉樹の葉に照り返えされ、輝くドームのようだ。
そして、残った光は、まっすぐと光のベールとなって、グリーンの地に差し込む。
向こうまで続くなだらかなグリーンの階段を、角度を微妙に変えたいくつものベールが覆う。
天使の階段である。

おとぎ話の不思議な冒険は続く。
光を浴びながら、天使の階段を潜り抜ける。
すると次は、風格のある屋久杉に出迎えられる。
縄文杉や大王杉よりはずーっと若々しい、いわば、王子の杉は、それでも既に、何種類もの木々の大切な棲家である。

そして、その奥に、静かにもののけの森がある。
何千年もの時を超え、苔がみごとにあたり一面を覆いつくすその空間は、祭壇なき聖殿。
その時間の重さが、その場所の時を止め、深い静けさと、荘厳さを創り出す。

人々の言葉は、少ない。
写真をとりつつも、黙って、しばらく、聖殿にひたるのであった。
by phytobalance | 2006-10-29 13:07 | 森・Forest